[ #飴村乱数誕生祭2019 ]


 僕の誕生日は、一年で一番愛に溢れている日だった。甘い匂いを漂わせた恋人達やオトモダチや家族が、幸せに過ごす一日。それが飴村乱数の誕生日だった。
 似合わなすぎて笑っちゃう。ほーんと、大っ嫌いだよ二月十四日なんて。
 だからこの日は毎年上手に言い訳をして、オネーサン達や仕事の関係者とか、数少ない知り合いから雲隠れしていた。そう、今年だって、その筈だったのに。

 『げんたろーがさあ、こっそり用意してたんだよ。アイツ多分友チョコっての、やってみたいんだろうな。
 だからさ、悪いけど、今日少しでいいから時間空けてくんねえか。女との約束詰まってるだろうけど、なっ』

 逃避先のホテルで一人静かにデザインを練っていた僕は、帝統のお願いに、右耳に当てた携帯を落としそうになった。
 胸がどきどきした。心拍数が不規則に乱れて、そんな感覚がこの身体にも残っていたんだと驚く。
 震えてもつれそうになった唇を強く噛んで、深呼吸してから帝統に返事をした。「ええー、幻太郎カッワイイ。しょーがないなあ、そっちに行くから待っててね」……うん、大丈夫。ちゃんと喋れた筈。
 パソコンをシャットダウンし、荷物をまとめてチェックアウトの準備を始めた。今すぐ行かなきゃ、今すぐ行きたい、と思いながら、ざわざわと落ち着かない左胸にそっと手を当てる。
 この胸のスイッチを押したのは、誰。